タトゥースタジオからネイルサロンへ
タトゥースタジオの片隅に設けた、たった1席のネイルスペース。
そこから始まった挑戦は、やがて人気ブランド「INITY」へとつながっていく。
異色のキャリアを持つhbaz代表・長井竜太が語る、20年の歩みと未来をつなぐ連載がスタート。
気づけば、20年走り続けてきた
気づけばもう20年ですね、自分でもちょっと驚いています。もともとは渋谷でタトゥースタジオを経営しており、その後、弟子だった女性と共に独立しました。彼女は原宿のネイルサロンでしっかり経験を積んでいたので、“この人になら任せられる”と思い、スタジオの横にネイルスペースを1席だけ設けたんです。それが、すべての始まりでした。
当時、『ホットペッパー』に「ラメグラデーション4980円」と掲載したところ、想像以上の反響があり、「あれ?ネイルってこんなに可能性あるの?」と、一気に視界が開けました。
綱渡りからV字回復へ
2005年、千駄ヶ谷に本格的なネイルサロンをオープン。
開業資金は自分の貯金に親からの支援を加え、なんとか230万円を工面。内装も自分たちで工夫しながら、ギリギリのスタートを切りました。売上が立たなければ即撤退という綱渡りの毎日でしたが、ありがたいことにお客様に恵まれ、2006年には隣の物件を借りて店舗を拡大。その後も新宿、池袋、秋葉原、新橋、那覇、浦和と店舗を広げ、気づけば6店舗を展開するまでになっていました。
しかし、順風満帆とはいきませんでした。
2010年代に入りネイルサロンが一気に増加すると、単価の下落や人材不足といった課題が浮上。
かつては1人のスタッフが月に90万円を売り上げていたのが、50万円ほどに落ち込むようになってしまったのです。
そこで2013年、スタッフ育成のためのスクール制度を導入。今では当たり前となっている「オン・オフ込みで1時間以内」の施術スタイルもこのときに導入しました。もちろん、最初は反発も大きく、スタッフの半数が離れていきました。でも、そこからが本当の再出発。新たなメンバーと共に再構築を進めた結果、環境も売上も大きく回復しました。今でも、あのV字回復は忘れられない出来事です。
必要だったから、自分たちで作った「INITY」
2015年には、自社ネイル製品ブランド「INITY(アイニティ)」を立ち上げました。
サロン経営当時、仕入れコストが売上の10〜20%を占めており、本当に苦労していました。
理想は6〜7%に抑えること。だからこそ、「自分たちで、品質が良く価格も抑えた製品を作ろう」と決意したのがきっかけです。
ブランド名の「INITY」には、“仲間”や“友達”といった意味を込めています。
ネイリストのすぐそばで、日々の仕事を支える存在でありたい。そんな想いで製品を届けています。
スタッフとの絆が原動力に
これまでさまざまなことがありましたが、一番心に残っているのは、自分の誕生日にスタッフたちから色紙をもらったこと。全店舗のスタッフがメッセージを寄せてくれていて、それを見たとき、「ああ、これが一番の財産だな」と、心から思いました。お金では得られない、“気持ち”のつながり。それこそが、経営の原動力だと感じています。
約20年にわたるネイル人生。数え切れないほどの出会いと別れがありましたが、ネイルとの出会いによって、人生そのものが大きく変わりました。これからも、どんな形であれ、ネイル業界にもっともっと貢献し続けていきたいと思っています。

Profile
hbaz代表取締役・長井竜太(@ryuta_nagai)
1975年、千葉県生まれ。2005年よりネイルサロンの経営をスタートし、2013年に株式会社hbazを設立。現在は「INITY」をはじめ、「TOY’s × INITY」「lem.」など複数の人気ネイルブランドを手がけ、業界の第一線で活躍中。
『NAIL VENUS』2025 summerより
Photo & Interview:Daisuke Udagawa(M-3)@udagawadaisuke