ネイリスト歴22年。
その原点は、JAのガソリンスタンドで働きながら、教科書を開いていた日々にある。オイルの匂いが残る制服のまま、休憩室でネイルの練習を重ねた。育児と仕事に全力を注ぎながらも、学びを止めなかった。

Profile
高野直枝
宮城県気仙沼市生まれ。群馬県邑楽郡板倉町、埼玉県加須市で育つ。横浜・桜木町コレットマーレで展開するネイルサロン「Tiary Nail(ティアリーネイル)」主宰。理念教育と接客接遇を軸に、現場育成とチームづくりを重ねる。国内外でネイルを通じた社会貢献活動にも取り組む。Instagram:@kouno_naoe
高野さんは、ネイルだけに留まらない。
接客、心理、美容、栄養学、現場作業資格まで。“人を見る仕事”として必要だと思ったものを、高野さんはその都度学び続けてきた。
これまでに取得した主な資格
◆ネイリスト技能検定試験2級
◆ジェルネイル技能検定試験 上級
◆ネイルサロン衛生管理士
◆クリストリオ社認定 ハードジェル上級
◆クリストリオ社認定 ソフトジェル「ジェラッカー」
◆耳つぼジュエリー認定講師
◆3Dボディージュエリー認定講師
◆危険物取扱者 乙種第4類
◆タイヤ空気充填作業 特別教育修了証
◆一般財団法人 内面美容医学財団公認 ファスティングカウンセラー
◆エニアグラム心理カウンセラー
◆StFlair DNA栄養学ジュニアアドバイザー
「忙しい」は、学びを止める理由にならなかった
「ネイリスト歴は22年です」
さらりと語るが、そこへ至る道のりは決して一直線ではない。
前職はJA。埼玉のガソリンスタンドで、接客を含む業務全般を担っていた。0歳の子どもを長時間預けながら働く毎日。それでも、学ぶことだけはやめなかった。
「仕事の合間に教科書を読んでいました。お昼休みに職員さんに手を借りて、ポリッシュやアートの練習をさせてもらったり」
カルジェルやバイオスカルプチュアジェルが主流だった時代。スカルプにも触れながら、基礎をひとつずつ積み上げていった。
呼ばれる場所へ。1人サロンから始まった“現場主義”
きっかけは、保育園で出会ったネイリストのママ友だった。ただ、当初は“仕事”にするつもりはなかったという。
「検定を取るのが楽しかったんです。資格が増えていく感覚が好きで」
転機となったのは、通っていた美容室オーナーのひと言だった。
「机と椅子があればできるでしょ」
場所まで用意され、JAと掛け持ちでネイルをスタート。平日はJA、土日と夕方はネイル。美容師たちが集客を手伝い、チラシ配布まで一緒に動いた。
実質、“1人サロン”の始まりだった。
その後は渋谷、大宮へと、呼ばれる現場へ足を運んだ。
「育児中だったので、ライフスタイルに合う場所を選んでいました」
独立への強い執着よりも、“必要とされる場所へ行く”。その積み重ねが、自然と経験の厚みになっていった。
「技術2割、人間力8割」繁盛店を育てた理念
横浜での展開に深く関わるようになり、サロンは転換期を迎える。
集客、育成、現場運営。
その中で見えてきた、“長く愛される店”の条件。
「ひとつのことを突き詰めることです」
一時はエステ導入も試みた。しかし、自分が理解しきれない領域では判断が鈍る。だからこそ、ネイルに軸を戻し、“磨き切る”ことを選んだ。
そして、何より大切にしてきたのが理念教育だった。
お客さまの時間を奪わない。
陰口を言わない。
言葉遣いを整える。
「技術だけでは、長く愛されるサロンにはならない。技術2割、人間力8割だと思っています」
店名の「Tiary Nail」に込めたのは、“ティアラ”と“フェアリー”。
理念は、「お客様のキラキラ輝く笑顔のために、幸せの種をお届けする」。
ネイルで生まれた笑顔が、その人の周囲へ広がっていく。街の灯のように、誰かの日常をやさしく照らしていく。
ネイルで届ける、“日本”という記憶
活動は、サロンの外へも広がっている。
フィリピンでは、国籍を持てずに生きてきた人々への支援活動に参加。マニキュアを塗り、ネイルチップを手渡し、浴衣の着付けも行った。
「浴衣を着せてあげただけで、泣き始める方もいて。こっちも、もらい泣きでした」
言葉を越えて伝わるものがある。“ネイルをする”以上に、“日本人が来てくれた”という事実そのものが、誰かの心を動かす瞬間だった。
国内でも、接客接遇やサロン運営に悩むオーナーたちの相談に向き合い続けてきた。サロンワークの延長にある、業界の土台づくり。人と向き合う姿勢は、いつも変わらない。
いちばん幸せなのは、スタッフが幸せなとき
「スタッフが幸せだったら、私も幸せです」
その言葉どおり、高野さんは“働く人”に寄り添うサロンづくりを続けてきた。ハンディキャップを持つスタッフとも働く中で、業務設計や共有方法を工夫してきたという。ここで働けるという事実が、その人の人生の選択肢を広げていく。だからこそ、サロンは単なる“働く場所”ではない。誰かが、自分らしく生きていくための居場所でもある。
これからもスタッフとともに、次の一歩を模索していく。22年間積み重ねてきたものは、単なる実績ではない。そのすべてが、未来へつながる布石だった。
人の時間と心を大切にするという軸は、これからも変わらない。Tiary Nailが灯してきた光は、今日もまた、誰かの指先から静かに広がっている。

指先から届いた、“日本”という記憶
フィリピンでの日系人支援活動にも参加している高野直枝さん。現地では、ネイルチップや水溶性マニキュアを届け、浴衣の着付けも行った。
「浴衣を着せただけで、泣き出す方もいて」
その瞬間、あらためて実感したという。言葉を越えて伝わる想いがあることを。ネイルは、ただ指先を飾るためのものではない。人の記憶や誇り、そして心の奥に触れる力を持っている。この活動は、高野さんにとって“美容”の意味を大きく広げる時間になった。

「Tiary Nail」13周年パーティ開催
「Tiary Nail」では、毎年恒例となる周年パーティを開催。1年間で功績を重ねたスタッフには、それぞれ特別賞が贈られ、豪華賞品や賞状が授与される。日々の努力を称え合うこの時間は、1年の労いと、次への決意を分かち合う大切な節目。スタッフにとっても、毎年心待ちにしているイベントのひとつだ。
13周年となった今回は、スペシャルゲストも来場。会場は、これまでの歩みを祝福するような、あたたかな華やかさに包まれた。

ネイルで社会とつながる、新しいかたち
― 美容の枠を越えるシンポジウム構想 ―
2026年秋頃、高野直枝さんらが主催するイベント「ネイルでつなぐ未来フォーラム」の開催が予定されている。テーマは、医療・福祉・教育・就労支援・社会貢献。美容の枠を越え、“社会とつながるネイル”の可能性を探るシンポジウムとなる。約300名規模を予定し、学生は無料参加。
ネイルは、単に指先を彩る技術ではない。人の心に寄り添い、社会と結びつき、誰かの未来を照らす力を持っている。その可能性を、次世代へと手渡していく場になりそうだ。
https://tiary-nail.jimdofree.com
Photo&Text_Daisuke Udagawa(M-3)

