「ULTRA CLASSIC 2」
2025.5.14-19 @日本橋高島屋S.C.(本館)
2025年5月、日本橋高島屋S.C.(本館)で開催された「ULTRA CLASSIC 2」は、伝統技法を軸としながらも現代的な感性や視点を取り入れる作家たちによる展示で、例年以上の注目を集めた。その中でも一際異彩を放ったのが、ネイルアーティスト・奥畑実奈さんの作品。

「ULTRA CLASSIC 2」
東京藝術大学大学院 美術研究科文化財保存専攻出身で修復・模刻を経験した作家、伝統工芸等の世界で活躍経験のある作家、そして修復などのキャリアのある作家によるグループ展。伝統は古いものに帰属することではなく、刷新し受け渡すものであるという考えから、古典に学んだ作家たちが現代に新しい彫刻の形を創造する。
◾️出品作家
伊藤一洋・奥畑実奈・小島久典・白澤陽治・重松優志・藤曲隆哉・木 石・三好桃加
奥畑さんは、東京藝術大学大学院(美術研究科彫刻専攻)在学中にネイルに魅了され、大学院と並行して黒崎えり子ネイルビューティカレッジにも通学。双方を修了後、ネイリストとしての道を歩み始めた奥畑さんは、現在フリーランスのネイリストとして、また日本古来の伝統工芸「乾漆(かんしつ)」の技術を受け継ぐアーティストとしても活躍している。

奥畑実奈さん
◾️Profile
奈良県出身。2000年 東京藝術大学美術学部彫刻科卒業、2002年 同大学院美術研究科彫刻専攻修了。2003年 黒崎えり子ネイルビューティカレッジ卒業。以後「エリコネイル」に勤務し、国内外のコンテストで多数の優勝経験を持つ。2023年に独立し、現在はフリーランスで活動中。@mina_okuhata
「昨年の開催は知っていたのですが参加はせず、今年はお声がけをいただき初参加となりました。『ULTRA CLASSIC』は、伝統の技術や素材を土台にしつつ、それらに新たな光を当てて再構築するという点で、私の制作姿勢と深く重なると感じています」
「ネイルは美術になれる」
奥畑さんの作品は、単なる “ネイルアート” の枠には収まらない。装飾を超え、文化や精神性をも内包した芸術作品として存在する。
「ここ数年、“爪と漆” をテーマに作品を集中して制作しています。私にとってネイルは、身にまとうものではなく“飾って鑑賞するもの”。今回のモチーフのひとつである『マニキュアのボトル』も、そのまま美術品になり得ると感じました。そこに漆の技法や素材を組み合わせることで、新たな価値を創出したいと考えました」



他のアーティストの出展作品では仏像修復技法が見受けられるが、奥畑さんの「マニキュアのボトル」における水晶の使用は、鎌倉時代の「玉眼(ぎょくがん)」技法を応用したものだという。


「水晶は仏像の眼にリアリズムを与えるために用いられてきた素材です。私はその技法をネイル作品に応用してみたかったんです。派手ではなく、あくまで “さりげなく” 。じっくり見た人だけが気づくような、奥行きのある表現を目指しました」
その発想から生まれる作品は、単なるネイルボトルではなく、まさに “小さな仏像” のような精神性を纏う。
「燦々」 現代の小花が降り注ぐように
代表作『燦々(さんさん)』は、小花が降り注ぐような明るい印象を持つネイル作品。漆の落ち着いた質感の中に、色漆と金粉で描かれた繊細な模様が浮かび上がる。
「漆に顔料を混ぜて色漆を作り、金粉を撒いて描く “蒔絵” の技法を用いています。完全に乾く前に金粉を撒き接着させるため、非常に繊細な作業になります。特に爪という曲面への施術は難しく、削りの工程で金粉が飛ばないよう、高度な集中力が必要です」
中には、制作に2ヶ月以上かかる作品もあるという。削り、重ね、乾かし、磨くという地道な工程の繰り返しが作品を形作る。



ビーズ刺繍との融合、新たな挑戦へ
「現在は、フランスの伝統技法 “オートクチュールビーズ刺繍” との融合にも挑戦しています」と話す奥畑さん。パリコレクションで使用される高度な刺繍技術をネイルやアクセサリー作品に取り入れ、新たな命を吹き込もうとしている。
「昨年、この技術の資格も取得しました。ビーズという素材を通してネイルに新しい命を吹き込みたい。一度は消えてしまう “儚い存在” のネイルに、伝統技術で “再生” を与える。それは私にとって、輪廻転生のようなテーマでもあるんです」

基本的には “飾る” ことを前提とした作品だが、身につけたいという声も少なくない。
「私は単に『作品はつけることができない』と拒絶するのではなく、装飾品としての可能性も模索しています。実際、リング状の作品も展示しましたし、サイズや形状を工夫することで用途は広がると思っています。漆は割れやすいため両面テープでの固定には限界がありますが、それでも工夫次第で “身につける芸術” として成立すると思っています」
今回の「ULTRA CLASSIC」の展示を一つの区切りとしつつ、奥畑さんの視線はすでに世界へと向いている。
「これからは海外の方々にもぜひ作品を見ていただきたい。日本の伝統技術を新しいかたちで発信することが、私の使命の一つだと思っています」
この日、奥畑さんの学生時代の恩師である彫刻家・東京藝術大学名誉教授の深井隆さんも来場し、久しぶりの再会を喜び合いながら、思い出話に花を咲かせた。

深井 隆さん
◾️Profile
彫刻家、東京藝術大学名誉教授。
1951年、群馬県高崎市生まれ。東京藝術大学大学院を修了。1984年から2019年まで、母校である東京藝術大学美術学部彫刻科にて教鞭を執る。2019年に退任。これまでに、平櫛田中賞や中原悌二郎賞優秀賞を受賞。2013年には紫綬褒章を受章。木を素材とし、ソファや椅子、馬といったモチーフを用いて制作。これらの作品にはしばしば翼が添えられる。人の姿を直接表現することなく、「人間の存在」や「不在」といったテーマを静かに問いかける作品世界を展開している。

「ULTRA CLASSIC 2」
2025.5.14-19 @日本橋高島屋S.C.(本館)
◾️出品作家
伊藤一洋・奥畑実奈・小島久典・白澤陽治・重松優志・藤曲隆哉・木 石・三好桃加
Photo&Text_Daisuke Udagawa(M-3)